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月の裏側を覗いてみると
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 フライパンの裏に月の裏側をみる
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見ることのできない月の裏側の図。手書きの月面図を紹介。
なぜかフライパンのシミに似ている
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闇の新月がすぎ、夕方の西空に猫の目より細い月がキラリと出てくると、なんだかワクワクすることはありませんか? 月の満ち欠けは、古今東西不変の原理。美しい月を見上げながら、多くの男女が詩人になるのでした。ところで、森下さんは月を見ると、長年使い込んだ自分のフライパンを思い出すそうです。月とフライパン。詩的な響きがしないでもないが……。

月の表側を地球から眺めることは出来ますが、裏側は地球にいては、永遠に見ることは出来ません。分かり切ったことではありますが、なんだか残念なことだと思っていました。
いまから20年ほど前、平凡社の百科事典の仕事で、表と裏の両方の月面図を描きました。人類が初めて月の裏側を目にしたのは1959年10月のこと。旧ソ連が打ち上げたルナ3号が撮った写真です。その後69年7月にはアポロ11号が月に着陸。人類が初めて月面に一歩踏み出す様子を、世界中の人がテレビで見守っていました。そこには「静の海」という名前がついています。アポロはそれからも、嵐の大洋やフラ・マウロ、ハドレーの谷、と次々に着陸を続けていきます。月の裏側の調査も、どんどん進んでいきました。

ところで、最近になって、わが家のフライパンに穴があきました。初めて自炊することになったとき買ったフライパンです。金物屋のおばさんに「安いものは駄目。高くても良いものを買いなさい」と強引に勧められ、普通の倍近くも高い値段だった記憶があります。1955年のことでした。
以来40年。このフライパンは使い込むほどに、油がジワーッとしみ出して、テフロン加工のものよりずーっと使いやすかった。それでも、ついに穴があいてしまったのです。金物屋のおばさんが言ったような一生ものにはならなかったけれども、40年も使えば、ほぼ一生使ったことになります。ゴミとして捨てるには思い出が多すぎて、書斎の壁に飾って眺めています。Macでの作業に疲れるとぼんやりと目を向け、色気はまったくありませんが、眼も心も休めてくれる私の宝物になりました。

「よく使い込んだものだ」と、このフライパンの穴をしみじみ眺めていたら、昔描いた月面図を思い出しました。早速、フライパンのデコボコと月面図を比べてみました。よく似ています。フライパンがくねっている部分は「静の海」のあたり、焦げが重なってぼこぼことしている様は、クレーターそのもののように思えます。月とフライパンが、酷似しているのが面白くて、飽きずに眺めているのです。満月のころ、空が晴れて空気が澄んでいると、月面に暗い影のようなものが見えます。兎の餅つき、と昔の人は言いましたが、最近は月面も、私のフライパンのように見えています。


構成 三代川律子[フリーライター]
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