この道40年、鋳物師塚田さん。完成品は満足の出来栄え
東京・葛飾区の塚田護社長(70)の第一声は「つくるのは簡単さ」だ。これには注釈があって、作り方は遠心分離機を使った昔ながらの簡単な方式だが、これを使って造るのは難しい。センスと腕。これがすべて。
塚田さんのアイディアを原型師が蝋で型にする。フィギュアの原型をデザインしたのは、塚田さんが「このセンスを持っているのは彼しかいない」という人。原型を塚田さんが修正する。馬癇(うまかん)の場合は、口を大きく開け、口の中まで細工した。表情が違ってくる。
これをゴムの型に取る。ゴムは軟らかいので、金属の型ではできない細かい細工まで反映できる。錫の合金を流し込み、遠心分離機にかける。錫は軟らかく、低温で処理できるからアクセサリー類の製造に向いている。
実は、馬癇の口の中まで細工するのが見せ所。立体の全面を細かく造り上げるのが難しい。ゴムの原型が切れやすいからだ。コツを見せてもらったが「そこは書くなよ」だった。
塚田さんは自動車工場で鋳物の検査を担当していた経験が役立っているのだという。その後、遠心分離機の輸入会社で納入先に作り方を指導していたが、独立して製造工房を開いたのが約40年前。日本の小規模製造業の衰退の例に漏れず、この業界は衰え、「業者はもう、3分の1ぐらいしか生き残っていない」と言う。
しかし、と塚田さんは言う。
「お客さんが難しいものを作れと言ってくる。普通は断るね。でも、やってみましょうと言って、失敗を繰り返しながら頑張る。金と労力はかかる。惜しまずにやって、技術が生まれるんだよ」
ある美術館が展示品のフィギュアをミュージアムグッズとして作った。価格を抑えるため中国製だったが、変色するとのクレームがきた。そこで、品質のいいものに変えるということで依頼した先が塚田さんだった。価格では、中国産競争に勝てない。でも、品質なら負けない。一寸の虫にも五分の魂、針聞書の虫にもメイド・イン・ジャパンの魂が宿っている。
ラバーキャスト(ゴムの型)を製造する機械。手間と技術が必要なため都内にも僅かしかない
ゴム型なので細かい意匠も自在に表現できる
一つひとつの型に錫を丁寧に流し込む
型から外し、コーティング仕上げをして完成